時をかける表象

東大に2度落ちてもなお未だに浪人生をしているという学生の日記。記事と日記に分かれてます

桃太郎 上

2018/11/12 月曜日

 

桃から生まれた桃太郎は、恋人の桃子の反対を押し切って鬼ヶ島へ鬼退治に行く。

 

もう何匹の鬼を退治したでしょうか。
人間離れした桃太郎の強さに鬼の首領までもが降伏した時でした。
桃太郎は疲れ切った顔で呟きます。
「もうこの世界から消えようと思うんだ。」
いつになく真剣な顔でサルたちが見つめます。

「いない方がいい気がするんだ。平和な世の中に。」
「だって、俺が最後の一匹なんだから。」
そう言い残すと桃太郎はどこかへ歩いて行きました。

気がつくと桃太郎は海岸へとたどり着きました。
追いかけてきたサルたちに背を向けて桃太郎は海へと入って行きます。
サルたちも後を追いますが、コンクリート色の冷たい冬の海は文字通り凍りつくほど冷たく、足を入れるだけで一歩も動けなくなるほどでした。

黒い鏡の中を桃太郎は進んでいきます。
もう感覚がない足を動かし、息ができない苦しさに耐えながら、自分の心に宿った最後の一匹の鬼を海に沈めるために。
冷たさのあまり、力が抜けて水面へ浮かびそうになりますが、仲間が増えるたびに少なくなっていった、お腰につけたきびだんごの重みと人間離れした精神力でぐっと堪えます。

枯れ果てたはずの涙腺から流れ出た涙が暗く深い海に溶け込んで行きました。

まるで涙さえも濁っているように桃太郎には見えました。

 

続く