時をかける表象

東大に2度落ちてもなお未だに浪人生をしているという学生の日記。記事と日記に分かれてます

2018/07/06 金曜日

 

女には恋人がいた

女は東京で音大に通っているバイオリニストの卵

恋人の男は地元群馬の大学に通っている大学生で、歳はどちらも21歳

2人は高3の時から付き合い始めた

女は上京しているが、遠距離恋愛というほど距離は遠くない

しかし女は将来有望なバイオリニストで忙しく、男とは月に1度会うかどうかといったところだった

付き合って3度目の記念日を迎えた夜、女は男が浮気をしていることを知った

男の寝顔を見つめながら2人の将来を考えていた時、男の携帯電話が鳴った

開くつもりはなかったが画面には「今日は何時頃帰る?」というメッセージが表示されていて、続けて「早く会いたいよ〜」という通知が画面の上から降ってきた

女はどうしていいかわからなくなった

気がつけば視界がぼやけて、両頬を涙が走っていた

顎の先端で今か今かと落ちるのを待っている涙が悲しさを際立たせて、涙の落ちるだけが虚しく部屋に響いた

何も気付かずにすやすや眠る男を見て殺意さえ覚えた

が、そうもしていられないと思ってこの男が寝ている間に全てを知ってやろうとも思った

一歩踏み入れてしまったからには仕方がない

血眼になって浮気相手とのやりとりを見た

浮気相手は同じ大学のサークルで知り合ったということ、もうかれこれ半年近く関係があること、その全てを知り、その全てに絶望した

そしてこの女の存在を全て消し去ってやりたいと思った

もしかしたら男のことを庇ってしまっていたのかもしれない

だからこの男を記憶喪失にしてしまおうと思った

自分を裏切ったこと、こんな奴を信じてしまっていたこと、それらに対する絶望感が原動力となって、血走った眼で記憶を消す薬を探した

途中、男が眠たそうな顔で起き上がったが、女は自分でも驚くほど何事もないように振る舞えた

本気で相手の記憶を消そうなんてことを考えているのにも関わらず、いつも通りの対応ができてしまう冷静な自分がどこか怖く思えてしまうほど

翌朝、交際4年目への第一歩を踏み出した日、いつも通りのサヨナラの挨拶をして2人は帰路についた

後日、女は海外製の薬を手に入れた

これを飲めばほとんどの記憶が消えるらしい

いわゆるアルツハイマーのような症状になる薬

これを男が飲めば、浮気相手の存在も忘れる代わりに、自分との日々も記憶から消える

女は迷った

しかしやがてこれを飲ませる決意をした

自分との今までの日々が消えても、また新しい日々を作っていけばいい

この男の忌々しい過去を振り払えるだけで満足だとすら思った

そして女は、男が浮気相手と飲んでいたらしい酒に薬を混ぜて宅配便で送った